賃貸物件を借りる際に、家財保険は必ずといっていいほど加入するものです。
しかし、実際のところ、家財保険がどこまでの物を補償してくれるのか、保険金額をいくらに設定すればいいのか、なかなかイメージがつかないことと思います。
そこで、この記事では、賃貸物件を借りる時に加入する家財保険とはどんな保険なのか、どのように組めば良いのか、簡単に解説しています。
The following two tabs change content below.
私たちは、お客様のお金の問題を解決し、将来の安心を確保する方法を追求する集団です。メンバーは公認会計士、税理士、MBA、CFP、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、行政書士等の資格を持っており、いずれも現場を3年以上経験している者のみで運営しています。
はじめに|賃貸物件で家財保険に加入する理由
賃貸物件を借りるにあたり、ほとんどの場合、火災保険への加入が条件となります。
これは賃借人に火災保険の「借家人賠償責任保険(特約)」に加入させるためです。
借家人賠償責任保険(特約)は、万が一借主が火災などで賃貸物件に損害を与えてしまった場合に、貸主への賠償責任を補償します。
この際の賠償金は、数百万円~1千万円超と非常に高額になる場合があるため、貸主としては借主に保険へ加入させ、賠償金を取りはぐれることがないようにする必要があるのです。
ただし、借家人賠償責任保険(特約)はあくまで火災保険の特約であり、単独では加入できません。火災保険へ加入する際はメインの補償「主契約」が必要です。そして、賃貸物件の火災保険の主契約は今回のテーマになっている「家財保険」なのです。
つまり、借家人賠償責任保険を目的に火災保険に入るとしても、結果的に家財保険への加入が必要となるわけです。
なお、火災保険の主契約は「建物の保険」と「家財保険」の2種類があります。そして、賃貸物件の場合、建物自体の保険は貸主が加入するため、借主の火災保険で主契約となるのは家財保険になります。
1.住宅の賃貸契約をする際の「家財保険」とは?
まず、住宅の賃貸契約をする際に加入する「家財保険」とは、どういった保険なのか、簡単に解説します。
1-1.賃貸向けの火災保険に含まれる保険の1つ
住宅の賃貸契約の加入の条件として、貸主や不動産会社から火災保険への加入を求められることがほとんどです。
一般に、賃貸物件向けの火災保険には、以下3つの保険が含まれています。
- 家財保険(主契約)
- 借家人賠償保険(特約)
- 個人賠償責任保険(特約)
つまり、住宅の契約時に加入する家財保険とは、賃貸向け火災保険に含まれる保険の1つであり、火災保険の主契約ということです。
1-2.自分の「家財」を補償するための保険
家財とは住宅の中にあって外に持ち出せる以下のようなものが該当します。
- 生活に使う家具や家電製品
- 食器・調理器具
- 文具品
- 洗面道具
- 食料品
- 寝具
- 書籍・CD・DVD・ゴルフ用品・トレーニング器具などの趣味・レジャー用品
- 仏壇やひな人形など
- 30万円以下の貴金属・美術品
- 敷地内に停めてある自転車
ご覧のように家財は、自宅にあって日常生活で使うもの全般を広く含みます。敷地内に駐輪している自転車も含まれるのです。
ただし、30万円を超える高級な貴金属・美術品は「明記物件」と呼び、補償してほしい場合は保険会社へあらかじめ報告した上で、家財保険とは別枠に補償の枠を設けることになります。その分だけ保険料が高くなります。
1-3.補償されるのは自分の起こした火災だけではない
火災保険は、隣室などが起こした火災の「もらい火」による被害も補償します。
隣室の火事が原因で自分の部屋も損害を受けた場合、普通に考えれば火元の借主に賠償してもらうべきで、なぜ自分の保険を使わければならないのか不思議に思う方もいるかもしれません。
その疑問は当然なのですが、日本では失火責任法という法律があり、自分で火事を出してしまった場合にも、「故意」もしくは故意と同視される「重大な過失」がない限り賠償責任を負わなくてもよいということになっているのです。
ちなみに「故意と同視される重大な過失」の例としては、寝たばこによる火災が挙げられます。
したがって、もらい火で被害を受けた側は、基本的に、自分自身でその損害を回復しなければなりません。そこで自分の加入する家財保険が役立つのです。
なお、家財保険は、もらい火による火災のほかにも、以下に挙げるような自然災害・事故による損害も補償してくれます。
- 落雷:落雷により生じた損害の補償
- 水災:台風による洪水など「水」に関する損害の補償
- 風災:台風による強風など「風」に関する損害を補償
- 水濡れ:漏水による損害を補償
- 盗難:盗難にあった場合の損害を補償
- 破損等:うっかり事故による損害を補償(※例:重い家具を運んでいて誤って壁にぶつけ、穴を空けてしまった。)
これらのうちどこまで補償範囲に含めるのかは、契約時に選択することができます。
1-4.どのくらいの保険金が受け取れるか
では、いざというときに家財保険でどのくらいの金額の保険金を受け取れるのでしょうか。
結論から述べると、家財保険は、基本的に、損害を受けた家財を修理したり買い直したりするのに必要な金額の損害保険金を受け取れるように設定されています。
ただし、この場合の損害保険金は、以下に挙げる条件の選び方によって変わります。
新価と時価
新価・時価とはいずれも損害保険金をどのように確保するかという算出方法で、契約時にどちらか選択することが可能です。
まず新価とは、火災などの被害によって損害を受けた家財と同等のものを買い直すのに必要な金額を指します。
これに対し、時価とは、新価から経年劣化で品質が落ちた分の金額を差し引く算出方法です。
時価で損害保険金が算出された場合、保険金だけでは家財を改めて買い直すことができません。これでは火災保険に加入する価値が半減してしまうため、あまりおすすめできません。
最近の火災保険では、保険会社側が最初から新価を選択していることがほとんどです。
しかし、古い保険の場合、時価が選択されていることがあります。不安な場合は、保険証券をチェックすることをおすすめします。
保険金額(評価額)
家財保険では、契約時に支払われる保険金の上限額をさす「保険金額」を決めます。
言い換えると、被保険者が所有する家財の評価額の総額を算出し、それと同額を保険金額として設定するわけです。
と言っても、全ての家財の評価額を正確に算出するのは非常に難しいので、保険会社ごとに用意する目安額をまとめた表(簡易計算表)を参考に決めるのが一般的です。
以下、参考までにA損保の簡易計算表を記載します。
|
単身世帯 |
2人以上世帯(延床面積) |
(面積無関係) |
20㎡未満 |
20㎡~30㎡未満 |
30㎡~40㎡未満 |
40㎡~50㎡未満 |
世帯主年齢 |
29歳以下 |
290万円 |
290万円 |
360万円 |
420万円 |
490万円 |
30歳~34歳 |
290万円 |
390万円 |
480万円 |
560万円 |
650万円 |
35歳~39歳 |
290万円 |
540万円 |
660万円 |
780万円 |
900万円 |
40歳~44歳 |
290万円 |
660万円 |
800万円 |
940万円 |
1,080万円 |
45歳~49歳 |
290万円 |
750万円 |
910万円 |
1,070万円 |
1,230万円 |
50歳以上 |
290万円 |
790万円 |
960万円 |
1,130万円 |
1,300万円 |
ご覧のように、世帯主の年齢や世帯の人数、延床面積によって評価額の目安をまとめています。
家財保険を契約する際には、こういった簡易計算表をベースとして、家財の量が少なければ評価額を下げたり、高価な家具が多ければ評価額を上げたりするわけです。
家財が全て焼失してしまった場合等に、損害をきちんとカバーできるだけの損害保険金を受け取れないと困りますので、保険金額(評価額)の設定は非常に重要です。
免責金額
免責金額とは、火災保険の対象となる損害が生じた際に、損害額のうち自己負担することが求められる金額をさします。免責金額を設定することによって保険料を安くすることができます。
たとえば、損害額が100万円で免責金額が3万円なら、受け取れる損害保険金は以下のようになります。
100万円-3万円=97万円
これに対し、損害額が3万円以下であれば、損害保険金は受け取れません。
なお古い火災保険の契約では、免責金額の代わりに「損害が20万円以上の場合に保険金を支払う」といった条件が設定されていることがあります。
この場合は、損害額が20万円未満なら保険金は支払われません。一方、20万円以上の場合は、損害額と同額の保険金を受け取ることができます。
2.火災保険に含まれる、そのほかの保険
次に、家財保険以外に賃貸向けの火災保険に含まれている借家人賠償保険と個人賠償責任保険について、簡単に紹介します。
2-1.【借家人賠償保険】賃貸物件に損害を発生させた場合の賠償を行うための保険
賃貸物件において、借主が火事を出すなどして建物に損害を与えた場合、借主は貸主に対する賠償責任を負うことになります。
しかし、この場合の補償額は高額となることがあるため、借主が支払うことができずに、貸主が十分な賠償を受けられない可能性があります。
借家人賠償保険は、そのリスクを予防するための保険です。
借主に貸主への賠償責任が生じた場合に、その賠償金等の費用を補償してくれます。
賃貸契約を結ぶにあたり火災保険(家財保険)への加入が条件とされる最大の理由は、貸主が、万が一の際にこの借家人賠償保険によって確実に賠償金を受け取れるようにするためです。
2-2.【個人賠償責任保険】他人に対する賠償責任を幅広く補償するための保険
個人賠償責任保険は、日常生活で他人に対して損害を与えてしまった場合の賠償責任を、幅広く補償してくれる保険です。
たとえば、賃貸マンション・アパートで、洗濯機のホースが外れて階下の部屋を水浸しにしてしまうなど、他の住人に迷惑をかけてしまうことがあります。
その際には階下の住人に対して賠償責任を負うことになりますが、個人賠償責任保険があればその際の賠償金を補償してもらえます。
個人賠償責任保険では、それ以外にも、子どもが投げたボールが他の人の家の窓ガラスを割ってしまった場合や、買い物中にバッグが商品に当たって壊してしまった場合など、いろいろな補償に対応しています。
また、昨今では自転車事故が社会問題化していますが、自転車で走行中に歩行者に衝突し怪我をさせてしまった際も、個人賠償責任保険を利用することが可能です。
もし自転車事故で歩行者に障害になるような重傷を負わせてしまったり、死亡させてしまったりした場合、その賠償額は数千万円以上の高額になることがあります。
加害者に高額な賠償金を支払う能力がないと、結果的に被害者が困ることになるため、自治体によっては自転車保険加入を義務化していることもあるぐらいです。
個人賠償責任保険に加入しておけば、この場合の補償にも対応しているため、自治体が求める自転車保険加入の義務の条件を満たしていることになります。
個人賠償責任保険のより詳しい内容については、「火災保険につけられる個人賠償責任保険とは何か?」でくわしく紹介しておりますので、興味があればあわせてご覧ください。
3.【参考】不動産会社が紹介する火災保険は補償内容・保険料が適切でない場合も
賃貸住宅で火災保険に加入する際に注意したいのは、不動産会社が紹介する火災保険の契約の補償内容が必ずしも適切ではなく、結果として割高になってしまっている場合がある点です。
なかには独身で補償すべき家財がそれほど多くないにも関わらず、1,000万という高額な保険金額が設定されていた、という話もあります。
火災保険は必ずしも不動産会社が紹介するものに加入する必要はないため、保険料を抑えたい場合は、ご自身で探してみてもよいでしょう。
賃貸住宅向けの火災保険の相場や自分で探す際のポイントは「賃貸住宅で火災保険が義務である理由と自分で選ぶ時のポイント」にまとめてありますので興味があればご覧ください。
まとめ
賃貸住宅における家財保険とは、火災などの災害・事故による自宅の家財(家電・家具・衣類など)の損害を補償する保険です。
賃貸住宅契約時にほぼ必ず火災保険を契約することになり、その際、「主契約」として必須の補償です。
賃貸向けの火災保険で最も重要なのは、借主が建物を焼損したり損害を与えたりした場合の賠償金等をカバーする「借家人賠償責任保険(特約)」ですが、これは主契約である家財保険と切り離して単体で加入できません。「個人賠償責任保険」も同様です。
そういう位置づけの家財保険ですが、加入する場合は、損害を過不足なくカバーできるように、保険金額を適切に設定する必要があります。そのために、この記事の内容を役立てていただけると幸いです。