※(2020年10月17日追記)この記事における法人保険の保険料の税務上の扱い、契約例に関する記載内容は、旧ルールを前提としております。最新のルールについては「法人保険の損金算入ルールを分かりやすく解説します」をご覧ください。また、新ルールを踏まえた法人保険の最新の活用法については「法人保険|会社のお金の問題解決に役立つ最新6つの活用法」をご覧ください。
企業向けの保険には様々なものがありますから、経営者である皆さまは「会社にとって本当に必要な保険はなんだろうか?」とお悩みになることもあるかと思います。
そもそも、保険の役割というのは、万が一の事態に備えてリスクを最小限に留める、という点にあります。特に、企業保険に関しての「万が一」というのは、会社の経営が立ち行かなくなってしまうような重大な危機のことを言います。
そして、そういう危機に備える企業保険は大きく2種類です。1つは生命保険、もう1つは損害保険です。この記事では主に、「企業のリスク」を考えた時の保険について、これら2つの分野に分けてご案内させていただきます。
なお、生命保険の中には、税金を抑えながら積立ができる保険もありますので、そういった保険についてもお伝えします。是非、最後までお読みになって、お役立てください。
The following two tabs change content below.
私は10年以上にわたり、生命保険業界で働いております。マイホームの次に高い買い物と言われることもある保険ですから、本当に必要な商品を無駄なく加入してもらうことが大切だと考えています。お一人お一人のご希望やライフプランをおうかがいし、少しでも豊かな人生を送るお手伝いが出来ればと思っております。
1. 生命保険
企業にとっての生命保険には、「経営者保険」と「福利厚生保険」があります。
まず、経営者保険は、会社の運営に重要な役割を果たしている経営者や役員の方にかける保険です。
経営者・役員の方の身に万一のことがあったり、病気やケガで業務から長期離脱したりすると、会社の業績に大きな影響を及ぼします。そういった場合をカバーするのが経営者保険の役割です。
次に、福利厚生保険は、従業員に対して生命保険等をかけることにより、福利厚生としての役割をもたせることも可能です。
順番に見ていきましょう。
1.1. 経営者のための保険
1.1.1. 死亡・高度障害に備える掛け捨ての生命保険
考えたくはないですし、あってはならないことですが、経営者のあなたに万が一のことがあったとき、会社はどうなってしまうでしょうか?
経営者の方が営業の中心として活躍されている場合、売上が激減してしまうことでしょう。借入先の銀行からは、残債の一括返済を求められる可能性も考えられます。
特に、資金繰りに余裕がなかったり、安定した利益が出にくかったりするのであれば、最優先で備えていただきたいのが、低いコストで経営者の死亡・高度障害状態に備えられる掛け捨ての生命保険です。なお、積立の機能をもつ生命保険もありますが、そのぶん保険料がかなり割高になります。後でお伝えします。
最低限、掛け捨ての生命保険には加入しておくことをおすすめします。
掛け捨ての保険は、以下の2つです。
■収入保障保険
収入保障保険は、経営者の方に万一のことがあった時に、その月から毎月一定額を受け取れる保険です。たとえば、「保険期間70歳まで、保険金月額60万円」などと設定します。
こうすると、加入した時から何事もなければ、毎月60万円ずつ、保険金の総額が減っていく計算になります。したがって、毎月の取引先等への支払金額が一定している会社で、無借金経営か、借金があっても新たな借入をする予定がない会社に向いています。
逆に、借入と返済を繰り返していて借入総額が減らない会社には向いていません。そのような会社であれば、次に説明する「定期保険」をおすすめします。
収入保障保険の保険料は非常に割安になっています。なぜなら、掛け捨てである上、保険金の総額が毎月減っていくからです。
詳しくは、『法人の収入保障保険が事業安定化に最適である3つの理由』をご覧ください。
■定期保険
定期保険は、経営者の方に万一のことがあった時、決まった額が受け取れるものです。保険期間は10年で更新していくのが一般的です(そのたびに保険料は上がっていきます)。
たとえば、「保険期間10年、保険金1億円」などと設定します。
万一のことがあったら必ず決まった額を受け取れるので、たとえば、借入と返済を繰り返していて借入総額が減らない会社が向いています。
掛け捨ての保険ですので、保険料は、収入保障保険ほどではないにしても割安です。
定期保険については『定期保険の経理処理|低い保険料で大きな保障を得られる仕組』をご覧ください。
1.1.2. 病気やケガ、働けなくなったときの保険
経営者の方が病気やケガで働けない状態になってしまったら、どんなことが起きるでしょうか?
大黒柱である経営者がいないと、業務における指示系統がバラバラになってしまったり、その影響で会社の売上がダウンする可能性もあるでしょう。
一個人として考えても、社会保障の一環である「傷病手当」は経営者・役員は対象外、さらに重篤な状態になってしまった時に支給される「障害年金」についても、会社員と比べ経営者・役員の保障額は少ないのが現状です。
このようなことからも、経営者の方にとって病気やケガへ備える自助努力が必要と言えます。
対象となる保険は、主に以下の2つになります。
「終身タイプ」とは、保険の保障が一生涯続くということです。
まず会社名義で経営者・役員の方に保険をかけます。保険期間は一生涯ですが、保険料の支払いは「10年」「●歳まで」などの短期に設定します。保険料は全額が会社の損金になります。
そして、入院・手術などの際は、いったん会社が給付金を受け取って、そこから「見舞金」というカタチで個人へ支払いを行います。
そして、支払いが終わったあとに、契約そのものを個人名義に変更すれば、経営者の方は、その後、自分で保険料を負担せずに、一生涯の保障を備えることができます。
この記事では詳細については触れませんが、名義変更を行う時には注意すべきポイントがいくつかありますので、活用をお考えの方は、以下の記事もご一緒にご覧いただければ幸いです。
※『法人が医療保険を有効活用できる3つの方法』『法人のためのがん保険3タイプそれぞれの最適な活用法』
1.1.3. 税負担を軽くしながら効率的に積立ができる生命保険
経営者・役員向けの生命保険の中には、保険料の全部または一部を損金算入しながら、資金を効率よく積み立てられる保険があります。よく、「節税対策」や「決算対策」等に役立つと言われているものです。
この記事では、あくまでも事業保障を目的とした場合をメインにお伝えしていますが、ご参考までに、そういった積立の機能のある保険もあるということをお伝えします。
損金を計上しながら資金を積み立てることのできる保険は、大きく以下の通りです(保険名をクリックすると記事にリンクします)。
これらは、
- 保険料を支払うと全部または一部が損金になる
- 適切なタイミングで解約すると多額の「解約返戻金」が受け取れる
という特徴があります。
詳しくは、『法人保険で必要な資金を準備する方法のメリットとデメリット』をご覧ください。
1.2. 従業員のための保険
次に、従業員のために加入する企業保険です。これは、リスクに備えるというよりも、「福利厚生の充実」のためのものです。
「福利厚生」というとお金がかかるイメージがあることと思います。確かに、退職金の制度を整えようとすると、それなりに大きなコストがかかります。
しかし、保険の中には、低いコストで、充実した福利厚生サービスを受けられるものもあります。
役員・従業員で一定の条件を満たしている方すべてに掛ける「団体保険」と呼ばれるものです。保障内容は「生命保険」に限らず、「医療保険」でも「がん保険」でもかまいません。
例えば、死亡保険金100万円の生命保険(定期保険)であれば、40歳男性で保険料は月額250円程度、40歳女性で保険料は月額200円程度で加入できます。
大切なのは、何かしらの保障に法人を契約者として加入すれば、福利厚生サービスを導入できることです。
たとえば、A生命の保険だと、対象者の役員・従業員の方は、以下のような福利厚生サービスを受けられます。
- 様々な割引サービスを利用できる
- 24時間の「健康相談窓口」を利用できる
- 提携のスポ―ツクラブに割引料金で通える
割引サービスというのは、旅行、ホテル、レジャー施設、グルメなどの割引サービスを活用できるサービスです。「リロクラブ」や「ベネフィット・ワン」等をイメージしていただければと思います。
ふつう、法人でこういったサービスを導入するには、役員・従業員1名あたり月額300~500円程度の費用がかかります。
しかし、団体保険で備えることで、本来のサービス導入費用よりも安くリロクラブやベネフィットワンのサービスを導入できて、さらに万一の場合の死亡保障も備えることができます
従業員の立場から考えると、会社が保険料を負担してくれて、従業員のために保険に加入してくれ、しかも大企業なみの福利厚生の制度を整えてくれるわけなので、大変ありがたいことだと思います。福利厚生が充実した良好な環境の会社ということになれば、優秀な人材が職場に根付いてくれるようになり、後進の育成にもつながることでしょう。
福利厚生に活用できる保険は、主に以下の通りになります(保険名をクリックすると記事にリンクします)。
ただし、上でお伝えしたような付帯の福利厚生サービスがあるかどうかと、サービスの内容は、保険会社によって違ってきます。
死亡・高度障害に備える保険
病気やケガの時の保険
退職金を準備する保険
この記事では、詳細について十分にお伝えしきれていない部分が多くありますので、『従業員の福利厚生に役立つ法人保険3種類の活用法』をご参考にしていただきますようお願いいたします。
2. 損害保険
さて、ここからは損害保険の分野についてお伝えしていこうと思います。
生命保険とはガラリと内容が変わり、損害保険では企業活動自体のリスクヘッジが大きな目的となります。
企業活動のリスクを考えてみると、会社に最も大きなダメージをもたらすのが、お客様等の「第三者」に対する賠償責任でしょう。数千万円単位、数億円単位になるような問題が起きてしまった場合、損害賠償金の支払いが経営を圧迫し、企業の存在そのものが危ぶまれるような大きなリスクが存在します。
最近では、エアバッグのメーカーの経営破綻が記憶に新しいところです。
誰が(役員や従業員)、いつ(業務中または業務外)、どんなことが原因で(車の事故など)、誰から(社外または社内)、賠償責任を求められるのか?について考えてみると、業種によって備えるべき損害保険の種類は多種多様なものがございます。
もちろん賠償責任だけではなく、事故でケガをした時などの経済的損失をカバーするような保障もございます。
この記事では、2つの業種を例として、企業が備えるべき損害保険の具体例についてお伝えしていきます。
具体例①:建設業のリスクに備える保険
建設業の方に備えていただきたい保険は、主に以下の3種類です(保険名をクリックすると記事にリンクします)。
建設業を営む経営者の方であれば、具体的な保険種類はご存じなかったとしても、これら3つの保険がなぜ必要であるかは、イメージしていただけるかと思います。
詳しくは、『建設業の保険|4つのリスクと絶対に備えておきたい補償』も合わせてご覧くださいますよう、お願いいたします。
具体例②:店鋪経営のリスクに備える保険
飲食店等、店舗を運営しているのであれば、以下の保険が必要です(保険名をクリックすると記事にリンクします)。
- 火災や自然災害で損害が発生した場合に備える保険(事業用火災保険)
- お客様が店舗内でケガをしてしまった場合に備える保険(施設賠償責任保険)
- 販売・提供したモノが原因でお客様等に損害を与えてしまった場合に備える保険(PL保険)
- お客様の持ち物が店内で盗難被害に遭ったり紛失したりした場合に備える保険(受託者賠償責任保険)
- 店鋪が営業できなくなった場合の収入減をカバーする保険(店舗休業保険)
中でも最優先で備えていただきたいのが、「火災や自然災害で損害が発生した場合に備える保険」つまり火災保険です。
総務省のデータによると1年間で火事が起きる確率は1世帯あたり0.1%以下となっているので、あまりリスクは大きくないように感じます。ただし、ひとたび火災が起きてしまうと、その被害額は甚大なものとなるのが現状です。したがって、火災保険に加入し、少ない費用で大きな損害に備えることは非常に重要です。
また、火災保険は、水災や風災といった自然災害もカバーします。実は、火災よりもこちらのリスクの方が大きかったりします。
火災や自然災害で店鋪に損害が生じると、以下のように、少し考えてみただけでも実に多くの費用がかかることが容易に想像できます。
- 店舗そのものを復旧するための現状回復にかかる費用
- 設備を再購入するためにかかる費用
- お客様に損害を与えてしまった時の賠償責任の費用
また、後日この「法人保険の教科書」の記事で改めてお伝えしますが、火災保険のプランニングが不十分だったばかりに、いざ被害に遭った時に十分な保険金が受け取れなかったケースもかなり多いのです。実際に、私たちも、そのような法人のお客様から、火災保険の見直しのご依頼をお受けすることがあります。
すでに火災保険に加入していたとしても、ご契約中の火災保険が本当に充分な内容となっているか、この機会に一度ご確認してみてはいかがでしょうか。
まとめ
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。この記事では、企業保険で備えるべき内容について、生命保険と損害保険の分野に分けてお伝えさせていただきました。
企業活動におけるリスクは、実に様々なものがございます。経営者の皆さまにとって、ご自分の会社はいわば分身のような存在になるわけですから、日頃から会社にとってのリスクは常に最小限にしておきたいとお考えのことでしょう。
私達は、これから新たに企業保険を検討される方、また、すでに企業保険を備えている方にとっても、お役に立てる情報をご案内したいと考えております。会社の規模や業種によって、本当に最適な保険は異なりますから、ご不明点は、ぜひお気軽にお問い合せくださいますよう、よろしくお願いいたします。